カルダノの解法(3次方程式の解法)
最高次の係数を\(1\)としても一般性を失わないので,
3次方程式
\(x^3+ax^2+bx+c=0\)を考える.
$$f(x)=x^3+ax^2+bx+c$$
とおく.
\(x=y-\displaystyle\frac{a}{3}\)
という変換により得られる\(y\)の3次式を\(g(y)\)とすると,
上の条件 を満たす組\((u,v)\)を求めよう. 条件の2つの目の式の両辺を3乗すると, \(u^3v^3=-p^3\)を得るが, これと \(u^3+v^3=-2q\) (条件の1つの目の式) と, 解と係数の関係から, \(u^3\)と\(v^3\)は,2次方程式 $$t^2+2qt-p^3=0$$ の解であることがわかる. 2次方程式の解の公式を用いて,
$$
g(y)=f\left(y-\displaystyle\frac{a}{3}\right)
=y^3+\left(-\frac{a^2}{3}+b\right)y
+\left(\frac{2a^3}{27}-\frac{ab}{3}+c\right)
$$
と計算でき,2次の項がない3次式が得られる.
簡単のため,
$$3p=-\frac{a^2}{3}+b
,\hspace{10pt}
2q=\frac{2a^3}{27}-\frac{ab}{3}+c
$$
とおくと,3次式
$$g(y)=y^3+3py+2q$$
を得る.
さらに\(y=u+v\ne0\)とおくと,
$$g(u+v)=u^3+v^3+2q+3(u+v)(uv+p)$$
と計算できる.
ここで,次の条件を考える.
$$
u^3+v^3=-2q
,\hspace{10pt}
uv=-p
$$
この条件を満たす組\((u,v)\)のうちの1つを
\((u_0,v_0)\)として,
\(y_0=u_0+v_0\),
\(x_0=y_0-\displaystyle\frac{a}{3}\)
とおくと,
$$
f(x_0)
=f\left(y_0-\frac{a}{3}\right)
=g(y_0)
=g(u_0+v_0)
=0
$$
が成り立つので,この\(x_0\)が
3次方程式\(f(x)=0\)の解の1つである.
上の条件 を満たす組\((u,v)\)を求めよう. 条件の2つの目の式の両辺を3乗すると, \(u^3v^3=-p^3\)を得るが, これと \(u^3+v^3=-2q\) (条件の1つの目の式) と, 解と係数の関係から, \(u^3\)と\(v^3\)は,2次方程式 $$t^2+2qt-p^3=0$$ の解であることがわかる. 2次方程式の解の公式を用いて,
$$
u^3=-q+\sqrt{q^2+p^3}
,\hspace{10pt}
v^3=-q-\sqrt{q^2+p^3}
$$
を得る.
よって,これを満たし,\(uv=-p\)(条件の2つの目の式)
を満たす組\((u,v)\)を求めれば良い.
そのような\((u,v)\)は3つあり,
3次方程式\(f(x)=0\)の解も3つ
なので,
ここで求めた3つの組\((u,v)\)に対応する\(x\)が
求める3つの解である.
一般論では,少し分かりにくいかもしれないが, 虚数を考える必要性が出てくるのは, 上の
$$
u^3=-q+\sqrt{q^2+p^3}
,\hspace{10pt}
v^3=-q-\sqrt{q^2+p^3}
$$
の部分である.
単に,2次方程式を解くだけのときは,
無条件に虚数解を無視する(解なし)としても矛盾が生じないが,
3次方程式では,確かに実数解が3つ存在するが,
その解法の途中で負の平方根が出現するということが起きてしまう.
これを具体例
で見てみよう.
\(f(x)=x^3-3x^2-3x+9=0\) として,3次方程式\(f(x)=0\) を考える. $$f(x)=(x-3)(x^2-3)$$ と因数分解できるので, \(f(x)=0\)は,\(x=3,\pm\sqrt{3}\)という3つの実数解をもつ.
この3次方程式にカルダノの解法を適用してみよう. \(x=y+1\)とすると, $$ g(y)=f(y+1) =y^3-6y+4 $$ を得る. よって, 上の一般論の記号をそのまま用いると,
$$
3p=-6
,\hspace{5pt}
2q=4
\hspace{10pt}
\Longleftrightarrow
\hspace{10pt}
p=-2
,\hspace{5pt}
q=2
$$
である.
\(y=u+v\)とすると,
\(u^3,v^3\)は,
2次方程式
$$t^2+4t+8=0$$
の解と考えられるので,
$$
u^3=-2+\sqrt{-4}
,\hspace{10pt}
v^3=-2-\sqrt{-4}
$$
を得る.
ここで虚数が登場するのである! 3次方程式\(f(x)=0\)は確かに3つの実数解を持つのだが, カルダノの解法では,ここで虚数を認めないと計算が進まないのである. 一旦,虚数を認めて, 解法を続けることにしよう. 虚数単位を\(i\)とする.
$$
u^3=-2+2i
,\hspace{10pt}
v^3=-2-2i
,\hspace{10pt}
uv=2
$$
を満たす組\((u,v)\)を求めれば良い.
このようなもののうち1つを
\((u_0,v_0)\)とすると,それが,
$$(u_0,v_0)=(1+i,1-i)$$
であることはすぐにわかる.
よって,実数解のうちの1つ
$$x_0=y_0+1=u_0+v_0+1
=(1+i)+(1-i)+1
=3
$$
が得られた.
虚数を認めることにより,実数解が得られたのである.
他の2つの解\(x=\pm\sqrt{3}\)についても同様にして求められる.
このようにして,カルダノは,虚数の存在を提唱したが, 当時の多くの人々は, この2乗して負の数になるという謎の数の存在を認めていたなったようである. しかし, 17世紀にデカルトが虚数という言葉を初めて使い, 18世紀にはオイラーが,imaginary numberの頭文字である\(i\)を虚数単位を 表すのに使用した. さらに1799年のガウスによる「代数学の基本定理」など により, 徐々に 虚数が 世に受け入れられるようになったと言われている.