陰関数の微分

\(x\)の関数\(y\)が, \(x\)と\(y\)の関係式 $$F(x,y)=0$$ で与えられているとき, \(y\)は\(x\)の \(F(x,y)=0\)によって定まる陰関数 という.

一般に, \(F(x,y)=0\)によって定まる\(x\)の陰関数\(y\)を, \(y=f(x)\)の形で表すことは容易ではない. 例えば, $$F(x,y)=x^2+xy+y^2-3=0$$ を, \(y=f(x)\)の形にするのは少し面倒である. 陰関数に対して, \(x\)の関数\(y\)が, \(y=f(x)\)の形で与えられているとき, \(y\)は\(x\)の陽関数という.

本稿の動機は,

「具体的に\(y=f(x)\)の形に書くことが難しい \(x\)の陰関数\(y\)の導関数\(y’\)を求めたい.」

というものである.

一般論は難しいので具体例を紹介する.
\(F(x,y)=x^2+xy+y^2-3\)として, \(F(x,y)=0\)によって定まる\(x\)の陰関数\(y\)の導関数を求めよう. \(y\)は\(x\)の関数なので, \(y=f(x)\)とおくと,
$$F(x,f(x))=x^2+xf(x)+\{f(x)\}^2-3=0$$
と書けるので, この両辺を\(x\)で微分することにより, $$ 2x+f(x)+xf'(x)+2f(x)f'(x)=0 $$ $$ f'(x)\{x+2f(x)\}=-\{2x+f(x)\} $$ を得る.よって, \(x+2f(x)\ne0\)のときは,
$$ f'(x)=-\frac{2x+f(x)}{x+2f(x)} \mbox{ すなわち, } y’=-\frac{2x+y}{x+2y} $$
が従う.

上の例では,\(y\)が\(x\)の関数であることが見やすいように, \(y=f(x)\)とおいたが,慣れれば,\(y\)のまま計算しても良い. この場合,合成関数の微分法に注意して, \(x^2+xy+y^2-3=0\)の両辺を\(x\)で微分することにより, 直接,
$$2x+y+xy’+2yy’=0 \Longleftrightarrow y’=-\frac{2x+y}{x+2y} $$
を得ることができる.


補足

上の例の\(F(x,y)=0\)すなわち,\(x^2+xy+y^2=3\)で定まる図形は楕円である. 上の結果の式 $$y’=-\displaystyle\frac{2x+y}{x+2y}$$ に,\((x,y)=(1,1)\)を代入して得られる 値\(-1\)は, この楕円上の点\((1,1)\)における接線の傾きである.




少し進んだ話

ここまでの議論では, 次にあげるようなことは無条件で仮定していた.
  • \(x\)と\(y\)の関係式\(F(x,y)=0\)により, \(x\)の陰関数\(y\)が定まっており,
  • \(y=f(x)\)が\(x\)で微分可能であり,
  • \(F(x,y)=F(x,f(x))\)が\(x\)で微分可能である.
関係式\(F(x,y)=0\)が, このような仮定を満たすためには, どのような条件が必要なのかに答えてくれる陰関数定理というものが 存在するが,残念ながら高校数学の範囲では定理を正確に述べることはできない. しかし,\(F(x,y)\)が高校数学で学ぶような初等関数で構成されている場合は, この陰関数定理が適用できるので,ここに述べた仮定を見たすことがわかっている. このような背景から,高校数学では,無条件に上を仮定し陰関数の微分法を用いている.


曖昧ではあるが,陰関数定理の主張を述べることを試みる. そのためにまずは記号を定義する.
\(F(x,y)\)を\(x\)の関数と見たとき(すなわち\(y\)を定数と見たとき)に, \(F(x,y)\)が\(x\)で微分可能であるとする. このとき, \(x\)の関数\(F(x,y)\)の\(x\)に関する導関数を\(F_x(x,y)\)と表す. すなわち, $$ F_x(x,y)=\lim_{h\to 0}\frac{F(x+h,y)-F(x,y)}{h} $$ と定める. また, \(y\)に関しても,\(y\)についての同様の仮定のもとで, $$ F_y(x,y)=\lim_{k\to 0}\frac{F(x,y+k)-F(x,y)}{k} $$ と定める. \(F_x(x,y)\)と\(F_y(x,y)\)が存在して,これらがともに連続 であるとき, \(F(x,y)\)は,\(C^1\)級であるという.

陰関数定理

関数\(F(x,y)\)が\(C^1\)級であり, $$ F(x,y)=0,\hspace{10pt} F_y(x,y)\ne0 $$ が成り立つとする. このとき, 微分可能な関数\(y=f(x)\)が存在して, 次が成り立つ. $$ F(x,f(x))=0,\hspace{10pt} f'(x)=-\frac{F_x(x,f(x))}{F_y(x,f(x))}. $$

上の例では, \(F(x,y)=x^2+xy+y^2-3=0\)で定まる\(x\)の陰関数\(y\)の導関数が, \(y’=-\displaystyle\frac{2x+y}{x+2y}\)であることをみたが, これの分子と分母はそれぞれ,
$$F_x(x,y)=2x+y,\hspace{5pt} F_y(x,y)=x+2y$$
になっていることに気づいただろうか. また例の途中で注意した \(x+2f(x)\ne0\)も, (\(y=f(x)\)とおいていたので,) \(F_y(x,y)\ne0\)のことであり, これは,陰関数定理の仮定の式である.


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この記事は, [黒田2018] を参考にさせていただいています.