LEIBNIZの固有三角形と4分円の面積

1673年頃,ライプニッツは, 曲線で囲まれる図形の面積を求める際に, それまでの限りなく小さい長方形に細分するという方法ではなく, ひとつの頂点を共有する微小三角形に細分するという方法に着想した. そこに現れる相似な三角形の組のことを 固有三角形(triangula characteristica)と名付け, 積分の変換定理を確立したのであった. 下図のように原点{\rm{O}}を通る曲線C:y=f(x)と, C上の点{\rm{P}}(x,y)を考える.
上で述べた固有三角形とは, ここに現れる2つの相似な三角形 \bigtriangleup{\rm{PP'{P’}’}}\bigtriangleup{\rm{OTH}} のことをいう.
これらの辺の比が等しいことから, \frac{\Delta s}{\Delta x}=\frac{t}{h} が成り立つことに注意すると, 次の有限変換定理を得る.
\bigtriangleup{\rm{PP’P”}} =\frac{1}{2}h\Delta s =\frac{1}{2}t\Delta x =\frac{1}{2}\mbox{□}{\rm{QQ’R’R}}

t,yxの関数とみて, t=t(x)y=y(x)=f(x))と表す. 点{\rm{P}}(x,y(x))であった. 曲線Cと直線{\rm{OP}}で囲まれる部分を\Sigmaとする.
上図のように, \Sigmaを原点{\rm{O}}を共有する三角形で 細分する.
\Delta x= \displaystyle\frac{x}{n} とし, x_k=k\Delta x \hspace{10pt}(k=0,\cdots,n) とする.
すなわち,x=x_nである. 現代の記号を用いると 有限変換定理から,
\Sigma =\lim_{\Delta x\rightarrow 0}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{2}t(x_k)\Delta x =\frac{1}{2}\int_0^x t(x) dx
が成り立つ. これを変換定理という.

このように,\Sigmaの求積において, t(x)が重要な役割をすることがわかる. ライプニッツは,特にこの変数t(x)resectaと名付けた.
はじめの図において, 線分{\rm{PQ}}に着目することで,
t(x)=y(x)-x\frac{\Delta y}{\Delta x} \longrightarrow y(x)-x y'(x) \hspace{20pt} (\Delta x \rightarrow 0)
を得る. ここで,y'(x)は,y(x)の導関数である.
y'(x)は,点{\rm{P}}における接線の傾きであるから, 上の関係式は, resecta t(x)を介して, 求積問題と接線問題をつなげる重要な関係式であると 見ることができる.


ライプニッツは,上で述べた変換定理を4分円に適用し, その面積の級数を用いた表示に成功した. 今日では,4分円の面積は\frac{\pi}{4}であることが知られているので, この級数表示は,\piの級数表示としても有名である.
中心が{\rm{M}}(a,0)で半径がaの半円(x-a)^2+y^2=a^2を考える. 点{\rm{P}}(x,y)とし, 点{\rm{P}}を接点とする接線と y軸との交点を{\rm{T}}(0,t)とする.
半円の方程式は, y^2=x(2a-x)と変形できることに注意し, \bigtriangleup{\rm{TMO}}\bigtriangleup{\rm{OPQ}}は, 相似 であることを用いると, \frac{t}{a}=\frac{x}{y}=\frac{xy}{y^2}=\frac{y}{2a-x} が成り立つ.この等式から, resecta t=t(x)を パラメータとするx,yの表示 x=x(t)=\frac{2at^2}{a^2+t^2} \hspace{10pt},\hspace{10pt} y=y(t)=\frac{2a^2t}{a^2+t^2} を得る. 半円と直線{\rm{OP}}で囲まれる部分を\Sigmaとすると, (現代の記号を用いると)変換定理から,
\Sigma =\frac{1}{2}\int_0^x t(x) dx =\frac{1}{2}\left\{tx-\int_0^t x(t) dt\right\} =\frac{1}{2}tx-a\int_0^t \frac{t^2}{a^2+t^2} dt
が成り立つ. ここで,最右辺の積分が,
\displaystyle\int_0^t \frac{t^2}{a^2+t^2} dt =\displaystyle\int_0^t \frac{\left(\frac{t}{a}\right)^2}{1+\left(\frac{t}{a}\right)^2} dt =\displaystyle\int_0^t \left\{ \left(\frac{t}{a}\right)^2-\left(\frac{t}{a}\right)^4+\cdots\right\} dt =a\left\{ \frac{1}{3}\left(\frac{t}{a}\right)^3-\frac{1}{5}\left(\frac{t}{a}\right)^5+\cdots \right\}
と級数展開できることは,当時のライプニッツにおいては既知であった.
これにより, 扇型{\rm{OMP}}の面積は,
\Sigma+\bigtriangleup{\rm{OMP}} =\frac{1}{2}tx-a\int_0^t \frac{t^2}{a^2+t^2} dt+\frac{1}{2}ay =at-a^2\left\{ \frac{1}{3}\left(\frac{t}{a}\right)^3-\frac{1}{5}\left(\frac{t}{a}\right)^5+\cdots \right\} =a^2\left\{ \left(\frac{t}{a}\right)+ \frac{1}{3}\left(\frac{t}{a}\right)^3-\frac{1}{5}\left(\frac{t}{a}\right)^5+\cdots \right\}
と計算できる.
最後に,a=t=1とすることで, (単位円の)4分円の面積は, \int_0^1 y(x) dx = 1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots と求められる.
この右辺の級数は,
グレゴリー・ライプニッツ級数
と呼ばれている. もし直接に左辺の積分を行おうとすると, \int_0^1\sqrt{x(2a-x)}dxという無理式の積分を扱わなければならない. これをライプニッツは変換定理により乗り越えたのである. また,(単位円の)4分円の面積は,\frac{\pi}{4}であることを用いると, 次の良く知られた\piの級数表示が得られる. \frac{\pi}{4} = 1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots


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この記事は, [中村1980][上垣2006] を参考にさせていただいています.