剰余環の普遍性

\(\bf{Ring}\)を(単位元を持つ可換)環の圏とする. \(\bf{Ring}\)の対象\(A, B\)に対して, \(A\)から\(B\)への射\(A\to B\)全体の集合を \({\rm{Mor}}(A,B)\)で表す. 集合全体のなす圏を\(\bf{Set}\)で表す. \(A\)を環, \(I\)を\(A\)のイデアルとする. \(A\)が表現する関手 \(h^A:{\bf{Ring}}\to{\bf{Set}}\)の部分関手 \(F\)を, 環\(B\)に対して, $$ F(B) =\{f\in{\rm{Mor}}(A,B)\mid I\subset{\rm{Ker}} f\} $$ で定める.

\(I\)による\(A\)の剰余環を\(A/I\)で表し, \(p:A\to A/I\)を標準全射とする. \(p\)の引き戻しは, 関手の同型を誘導する.
定理. 上の記号をそのまま用いる. 関手の同型 $$ p^*:h^{A/I}\to F $$ が存在する.
定義.
定理の 関手の同型\(p^*\)が存在することを剰余環の普遍性 という.

定義.
\(C\)を圏とし, \(F:C\to{\bf{Set}}\)を関手 とする. \(C\)の対象\(X\)と関手の同型 \(h^X\to F\)が存在するとき, \(F\)は\(X\)で表現される(表現可能である) という. また,この同型により, \(1_X\in h^X(X)\)に対応する \(F(X)\)の元を, \(F\)の普遍元という.

注意.
剰余環の普遍性とは, 剰余環\(A/I\)が関手\(F\)を表現することと言っても同じことである. 普遍元は, 標準全射 \(p\in{\rm{Mor}}(A,A/I)\)である.


定理の証明はこちら
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この記事は, [斎藤2020] を参考にさせていただいています.