多項式環の普遍性

集合の圏を\({\bf{Set}}\)で表し, 集合\(X,Y\)に対して, \(X\)から\(Y\)への写像全体の集合を \({\rm{Map}}(X,Y)\)で表す. \(A\)を(単位元を持つ)可換環とする. \(A\)加群の圏を\(A{\bf{\mbox{-}Mod}}\)で表し, \(A\)加群\(M,N\)に対して, \(M\)から\(N\)への\(A\)線形写像全体の集合を \({\rm{Hom}}_A(M,N)\)で表す. \(A\)上の環の圏を\({\bf{Ring}}^A\)で表し, \(A\)上の環\(B,C\)に対して, \(B\)から\(C\)への\(A\)上の環の射全体の集合を \({\rm{Mor}}_A(B,C)\)で表す.

\(A\)を可換環とし,\(\mathbb{N}\)を非負整数全体の集合とする. 自由加群の普遍性で構成した自由加群(\(A^{(X)}\)の\(X\)を\(\mathbb{N}\)としたもの) $$ A^{(\mathbb{N})}:=\{ s\in{\rm{Map}}(\mathbb{N},A)\mid V_s\mbox{は有限集合} \} $$ は,標準基底 \(\{e_n\mid n\in\mathbb{N}\}\) に対して, その乗法を, $$ e_n\cdot e_m=e_{n+m} $$ で定めることにより, \(A\)上の環となる. ここで,\(\mathbb{N}\)では通常の加法を考えている.

定義. \(A^{(\mathbb{N})}\)を 上で定めた乗法により, \(A\)上の環と考えたものを \(A[T]\)で表し, \(A\)上の\(1\)変数多項式環よぶ. 標準基底 \(e_n\)は,\(T^n\)で表す. 乗法の定義から, \(T^n\cdot T^m=T^{n+m}\)である.

\(h^{A[T]}:{\bf{Ring}}^A\to{\bf{Set}}\)を \(A\)上の\(1\)変数多項式環 \(A[T]\)が 表現する関手 とする. \(A[T]\)は普遍元を\(T\)として,忘却関手\(U:{\bf{Ring}}^A\to{\bf{Set}}\)を表現する.
定理. 関手の同型 $$ h^{A[T]}\to U $$ が存在する.

定義. 定理の 関手の同型が存在することを多項式環の普遍性 という.



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この記事は, [斎藤2020] を参考にさせていただいています.